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3-09-2: 電池

電池の正しいイメージを持つことが電気分野にとって重要です。 → <例題>は3-09-3へ                                 

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ポイント   
・ 電池は負極より正極の方が電位が高い(電池は電位を汲み上げるポンプの役割をする)         
・ 電池をつないだままだとコンデンサーの電圧は変わらない(一定のまま)
・ 電池のする仕事=電池を通過する電荷×1Cあたりの位置エネルギー(電位)の増加 
    \(\Delta W\)   =   \(\Delta Q\)    ×    \(V\)     (\(V\)は電池の電圧)

 ここでは、前の単元の「極板間引力と静電エネルギーの関係」を再び題材にして、電池の重要事項を様々扱っていくことにする。
 図1の左下にある長短の横2本線が電池の回路記号で、長い方が電池の正極(乾電池の⊕側)、短い方が負極(⊝側)を表す。電池の左側に\(V\)とあるのは、正極と負極の間の電位差のことで、電圧起電力ともいう。これらの言葉の微妙なニュアンスの違いは追々学んでいけばよく、当面は電位差=電圧=起電力と理解しておけばよい。単位は[V]。乾電池はふつう電圧1.5Vとして市販されている。図中には実線と点線があるが、まずは実線部分から。負極側の導線とそれに接続したコンデンサーの極板には、ひとつながりの導体は等電位という意味で青色を施してある。例えば青の電位を0Vとしよう。同様に正極側の導線とそれに接続した極板には緑色を施してある。電池は負極より正極の方が電位が\(V\)高い(また後で述べる)。ゆえに青を0Vとして、緑の電位は\(V\)。すると、コンデンサーの青の極板が0Vで緑の極板の電位が\(V\)だから、コンデンサーの電位「差」は\(V\)(黄色の実線)。そう、電池の電位差が\(V\)ならばコンデンサーの電位差も\(V\)。これを称して「電池の電圧がコンデンサーにかかる」という。     
 図1では、まえの状態(実線)の極板間隔\(d\)よりもあと(点線)の間隔の方が微小量\(\Delta d\)だけ短くなっている。あとの状態も電池の電圧がコンデンサーにかかるから、その電位差は\(V\)のまま(黄色の点線)。つまり、電池をつないだままだとコンデンサーの電圧は変わらない(一定のまま)。一方、3-08-1の容量\(\displaystyle C= \frac{\epsilon_0 S}{d} \)(\(S\):極板面積、\(\epsilon_0\):真空の誘電率)の分母の\(d\)があとの状態では\(d-\Delta d\)に減るから、\(C\)は増える。すると電荷\(Q=CV\)(3-08-1)も増えることになり、その変化量を\(\Delta Q\)とおけば、あとの状態の上極板(点線)の電荷は(\(Q+\Delta Q\))、下極板の電荷は(\(-Q-\Delta Q\))となる。このとき、まえからあとの過程で電池を電荷\(\Delta Q\)が通過する、その説明に移ろう。

図1

 まずは電流の間違ったイメージから。「下極板から\(\Delta Q\)が流れ出る。流れ出た\(\Delta Q\)は導線中を右回りに流れ、遠路はるばる上極板に到達する。上極板の電荷は\(Q\)から\(Q+\Delta Q\)になる。」これは全くの誤り。
 正しくは以下の通り。「導線のあらゆる所で(ほぼ)同時に\(\Delta Q\)が流れる。下極板の電荷が\(-Q\)から\(-Q-\Delta Q\)に変わると(ほぼ)同時に、上極板の電荷が\(Q\)から\(Q+\Delta Q\)になる。」つまり、例えて言うなら電流とは、歯磨き粉のチューブの中を流れる歯磨き粉のようなもの。チューブのお尻を押すと(ほぼ)同時に出口から歯磨き粉が出る。お尻の歯磨き粉とは下極板から流れ出る\(\Delta Q\)の例え。出口から出る歯磨き粉とは上極板に流れ付く\(\Delta Q\)の例え。電流とは導線の各点各点で同時並行的に生じる流れだ。  (☆)
以後このように電流をモデル化して回路を扱っていく。
 さて、電池と言えばボルタの電池、マンガン電池、リチウムイオン電池、太陽電池、電気二重層キャパシタ、…等々、その種類は多岐にわたる。これら全てを統一的に扱える電池のモデルが図2。電池は負極で電荷\(\Delta Q\)を吸い込むと(ほぼ)同時に正極で\(\Delta Q\)を吐き出す。ただし、\(\Delta Q\)の電位を\(V\)上昇させる電位とは1Cあたりの持つ位置エネルギー[V=J/C]だから、電池は\(\Delta Q\)に対して仕事をしてその位置エネルギーを上げる役割を果たす。電池は電位をくみ上げるポンプのようなものだ。なお、負極で\(\Delta Q\)を吸い込むと(ほぼ)同時に正極でそれより少ない\(\Delta Q-10^{-6}\)Cを例えば吐き出すとすると、電池が\(10^{-6}\)Cの静電気を帯びることになるが、そのような状況は大学入試では決して扱われない。あくまでも\(\Delta Q\)を吸い込むと(ほぼ)同時に\(\Delta Q\)を吐き出す。
 ここで、前の単元のエネルギー保存則「系外から仕事を加えると、その分だけ系内のエネルギーが変化する」というエネルギーに関する宇宙の根本原理を、電荷\(\Delta Q\)という系に適用する(図2)。すると「電池が\(\Delta Q\)にした仕事の分、\(\Delta Q\)の位置エネルギーが増える」となる。結局、
  電池のする仕事\(\Delta W=\)電池を通過する電荷×1Cあたりの位置エネルギー(電位)の増加\(=\Delta Q \cdot V\)
     [   J   =    C    ×   J/C   ]

図2 この図で起こっていることの時間間隔は十分短く、(☆)で述べたことにより自由電子の流れの速さはいたる所一定と見なしてよい。つまり\(\Delta Q\)の運動エネルギーはいたる所一定。

 電池の話はこれ位にして、冒頭で述べた「極板間引力と静電エネルギーの関係」が図1でどのようになっているかは、次の単元3-09-3の<例題>で考察することにする。

Posted by AKJ