1-16-3: 2次元の運動エネルギーと仕事(続き)
2次元での運動エネルギーと仕事の関係は、1次元の場合を一般化したもの、それをしっかり押さえましょう。
→ 関連事項はは10-04-1: 力学的エネルギー保存則 の証明へ
ポイント (式の説明は本文を参照のこと)
・ 運動エネルギー \displaystyle K=\frac{m}{2}|\vec{v}|^2
仕事 \displaystyle W=\lim_{\Delta \vec{r}→0} \sum_{\Delta \vec{r}} |\vec{F}|\cos\phi \cdot |\Delta \vec{r}|
・ 運動エネルギー変化 = 仕事
\displaystyle \frac{m}{2}|\vec{v}|^2- \frac{m}{2}|\vec{v_0}|^2 = \displaystyle W=\lim_{\Delta \vec{r}→\vec{0}} \sum_{\Delta \vec{r}} |\vec{F}|\cos\phi \cdot |\Delta \vec{r}|
この式はx成分の式、y成分の式のように別々に立ててはいけない
1-16-2最後の式 \displaystyle \Delta \left( \frac{m}{2}|\vec{v}|^2 \right) =|\vec{F}|\cos\phi \cdot |\Delta \vec{r}| ただし\Delta \vec{r}→ \vec{0} (1)
(\phiは\vec{F}と\Delta \vec{r}のなす角) をこの単元の出発点とする。
図1のような曲線の軌道をn個の線分(黄色)に分割し、それぞれを変位\Delta \vec{r_1},\Delta \vec{r_2}, \cdots, \Delta \vec{r_n} と名付ける。最終的には\Delta \vec{r_k}→\vec{0}(k=1,2,\cdots,n)の極限を取るから、線分ごとの運動と曲線運動は一致する。k番目の拡大図が図2。これに(1)を適用すると、
\displaystyle \frac{m}{2}|\vec{v_k}|^2- \frac{m}{2}|\overrightarrow{v_{k-1}}|^2 = |\vec{F_k}|\cos\phi_k \cdot |\Delta \vec{r_k}| \; (2)

再び図1に戻って、(2)をk=1,2,3,\cdots,n番目について書くと、
\frac{m}{2}|\vec{v_1}|^2- \frac{m}{2}|\vec{v_0}|^2 = |\vec{F_1}|\cos\phi_1 \cdot |\Delta \vec{r_1}| [ \vec{F_1},\phi_1は図示していない ]
\frac{m}{2}|\vec{v_2}|^2- \frac{m}{2}|\vec{v_1}|^2 = |\vec{F_2}|\cos\phi_2 \cdot |\Delta \vec{r_2}|
\frac{m}{2}|\vec{v_3}|^2- \frac{m}{2}|\vec{v_2}|^2 = |\vec{F_3}|\cos\phi_3 \cdot |\Delta \vec{r_3}|
\cdots \cdots \cdots
\frac{m}{2}|\vec{v}|^2- \frac{m}{2}|\overrightarrow{v_{n-1}}|^2 = |\vec{F_n}|\cos\phi_n \cdot |\Delta \vec{r_n}|
これらn個の式を足すと、左辺が数学の「部分分数分解」のようにして\frac{m}{2}|\vec{v}|^2- \frac{m}{2}|\vec{v_0}|^2 となり、右辺は和の記号を用いて書けるから、結局次のようになる。
\displaystyle \frac{m}{2}|\vec{v}|^2- \frac{m}{2}|\vec{v_0}|^2 =\sum_{k=1}^{n} |\vec{F_k}|\cos\phi_k \cdot |\Delta \vec{r_k}| (*)
物理では、添え字kを省き、さらに和の記号も\displaystyle \sum_{\Delta \vec{r}} のように書いて、右辺を\displaystyle \sum_{\Delta \vec{r}}|\vec{F}|\cos\phi \cdot |\Delta \vec{r}| のように略記することが多い。
ここで\Delta \vec{r}→\vec{0}の極限を取っていたことを思い出そう。\Delta \vec{r}→\vec{0}での(*)の右辺を仕事Wと定義(1-02-1)する。
\displaystyle W=\lim_{\Delta \vec{r}→\vec{0}} \sum_{\Delta \vec{r}}|\vec{F}|\cos\phi \cdot |\Delta \vec{r}| \; (3)
すると(*)より、
\displaystyle \frac{m}{2}|\vec{v}|^2- \frac{m}{2}|\vec{v_0}|^2 = \displaystyle W=\lim_{\Delta \vec{r}→\vec{0}} \sum_{\Delta \vec{r}} |\vec{F}|\cos\phi \cdot |\Delta \vec{r}| (4)
これが 運動エネルギー変化 = 仕事 の式である。
(3)を見ると、|\vec{F}|\cos\phiは図2より力\vec{F}のうち物体の移動方向\Delta \vec{r}に沿う成分。|\Delta \vec{r}|は微小な距離。ゆえに(3)の2次元運動の仕事Wは「(力の移動方向成分)×(微小距離)を足し上げたもの」というような意味になる。これは、1-16-1の単純な1次元運動の仕事W=(力の移動方向成分)×(距離)を一般化したものになっている。
また、振り返ってみれば(4)を導くのに用いたのは、運動エネルギーKと仕事Wの定義、運動方程式\displaystyle m\frac{d\vec{v}}{dt}=\vec{F} 、及び数式変形のみである。
この(4)を押さえれば、10-03-2: 位置エネルギー の本格的な説明や、10-04-1: 力学的エネルギー保存則の証明 などへと話が広がっていく。
さて、1-16-2の通り2次元の運動エネルギーKは定義により\displaystyle K=\frac{m}{2}|\vec{v}|^2 \displaystyle =\frac{m}{2}({v_x}^2+{v_y}^2) だった。ということは、Kにはv_xとv_y両方を含めなければならない。言い換えると、(4)はx成分の式、y成分の式のように別々に立ててはいけない。とりわけ左辺は、速さ|\vec{v}|(や|\vec{v_0}|)丸ごとの2乗をとるのだ。
運動方程式m\vec{a}=\vec{F}のように、x成分の式ma_x=F_x とy成分の式ma_y=F_yを別々に立てられるのを「ベクトル式」という。これに比して、(4)のように別々に立ててはいけないのは「スカラー式」という。もう気付いている人もいるだろうが、(4)の左辺に現われる\vec{v}の大きさ|\vec{v}|は数学的にはスカラー量である。また、(4)の右辺の|\vec{F}|\cos\phi \cdot |\Delta \vec{r}|は内積\vec{F} \cdot \Delta \vec{r} と書き換えられ(1-16-2の冒頭の(☆)参照)、内積もまた数学的にはスカラー量である。ゆえに(4)はスカラー式となる。エネルギーも仕事も、ベクトル量ではなくスカラー量である。
<補足> (4)の右辺の仕事を大学では \displaystyle W=\int_C \vec{F} \cdot d\vec{r} のように書く。\displaystyle \int_C は「線積分」の記号で、「(曲線)軌道Cに沿って積分せよ」というほどの意味。