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1-16-1: 運動エネルギーと仕事

「運動エネルギー」「仕事」という重要な概念をきっちり理解しましょう                

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ポイント             
・ 運動エネルギー\(=\)\(\displaystyle \frac{m}{2} v^2 \)[J](\(m\): 質量、\(v\): 速度)
・ 仕事\(W=\)(力の移動方向成分)×(距離)\(=F\cos\theta ×l \) [J]
   ただし、力の移動方向成分\(F\cos\theta \) は一定だとする
   (一定でない場合は1-18-1を参照)
   とくに、力の向きと移動の向きが逆ならば仕事は負
       力の向きと移動の向きが垂直ならば仕事は0
・ 運動エネルギー変化=仕事 \(\displaystyle \frac{m}{2} v^2 -\frac{m}{2} {v_0}^2
=W \)

 質量\(m\)の物体に力\(F\)を加え続けて距離\(l\)動かす状況を考える(図1)。\(F\)が斜め上向きなのは、例えば人が肩にひもをかけて引張っているイメージ。「力\(F\)のうち物体の移動方向(\(x\)方向)に平行な成分」\(F\cos\theta \)を、略して「力の移動方向成分」と呼ぼう。ここでは、\(F\cos\theta \)が一定の場合を考える。
 まずは定義から。(1-02-1でやった通り、「○○と呼ぶ・名付ける・決める」タイプの式を定義式という。名付けておくと役に立つから定義するわけである。)
 運動エネルギー\(=\)\(\displaystyle \frac{m}{2} v^2\) (\(\displaystyle \frac{m}{2} v^2\)を運動エネルギーと呼ぶ)
 仕事\(W=\)(力の移動方向成分)×(距離) \(=F\cos\theta ×l \)(とりあえず日常用語の「仕事」のことは忘れて、物理用語としての「仕事」と呼ばれるもの、くらいに思っておこう。)
 また、運動エネルギー変化= (あとの運エネ) - (まえの運エネ) (図1)
             =  \(\displaystyle \frac{m}{2} v^2 \)      -   \(\displaystyle \frac{m}{2} v_0^2\)
と定義する。このように定義すると、

図1

 運動エネルギー変化=仕事  つまり、   
  \(\displaystyle \frac{m}{2} v^2 -\frac{m}{2} {v_0}^2=W \:\, \)         (1)
が成り立つことが以下のように証明できる。

  証明 等加速度の公式
    \(v=v_0+at \)           (2)
    \(x=x_0+v_0t+\frac{1}{2}at^2 \, \)      (3)  を用いる。
   いま(後々うまく行くので)\(v^2-{v_0}^2\)を計算してみると 
    \(=(v+v_0)(v-v_0) \)
   (2)を代入 \(=(2v_0+at)at \)\(=2(v_0+ \frac{1}{2} at)at \)
    \(=2a(v_0+ \frac{1}{2} at)t \)\(=2a(v_0 t+ \frac{1}{2} at^2) \)
   (3)を代入 \(=2a(x-x_0) \)
   ここで両辺を\(\frac{m}{2} \)倍する
    \(\displaystyle \frac{m}{2} v^2 -\frac{m}{2} {v_0}^2 =ma(x-x_0) \)  (4)
   図1で\(x\)方向の運動方程式 \(ma=F\cos\theta \) 及び
   \(x-x_0=l\) を(4)の右辺に代入
    \(\displaystyle \frac{m}{2} v^2 -\frac{m}{2} {v_0}^2=F\cos\theta ×l=W \)
   よって(1)が証明された

 ところで、運動エネルギーとは結局何なのか。それを理解するために、運動エネルギー\(\frac{m}{2} v^2 \)を持つ物体を、運動の向きと逆向きに手で一定の力\(f\)を加えながら手を後ろに引きつつ、物体を静止させてみる(図2)。
 このとき、手が物体にした仕事(手から物体に働く左向きの\(f\)のした仕事)は
  \(W=\)(力の移動方向成分)×(距離) \(=-f×d\)
 つまり、力の向きと移動の向きが逆ならば、力の移動方向成分が負になるから仕事は負だ。すると(1)より 
  あと\(-\)まえ\(\displaystyle =\frac{m}{2} 0^2 – \frac{m}{2} v^2=-fd \)  
  ∴ \(\displaystyle fd=\frac{m}{2} v^2 \)            (5) 

図2

 一方、作用反作用により、物体が手にした仕事(物体から手に働く右向きの\(f\)のした仕事)は
  \(W’=+f×d\) 
 (5)を代入して \(\displaystyle W’=\frac{m}{2} v^2 \)
 ということは、「運動エネルギー\(\frac{m}{2} v^2 \)の物体は、静止するまでに他の物体(手)に\(W’=\frac{m}{2} v^2 \)だけ仕事をすることができる」ということになる。この「他の物体にすることができる仕事の量」「仕事する能力」のことをエネルギーと呼んでいる。1-17-1ではまた別のエネルギー「位置エネルギー」が登場する。
 こうして結局(1)の意味は、「物体はされた仕事の分だけ仕事する能力(運動エネルギー)を増やす」となる。
 なお、力の向きと移動の向きが垂直の場合図1で\(\theta=90°\)となって \(W=F\cos90° ×l =0\)、すなわち仕事は0である。[ 力の向きと移動の向き(右向き)が垂直だと、図1のような場合では物体を右向きに距離\(l \)移動させることはできない。が、力が何本か加わりつつ物体が右向きに移動し、ある特定の1本の力(例えば垂直抗力)が移動の向きと垂直であるような場合、その力のする仕事は0になる。このような状況が今後よく出てくる。]

 単位について確認しておこう。
 仕事\(W=F\cos\theta ×l \)で、\(F\)の単位は1-05-1の通り[N=\(\text{kg} \cdot \)m/s\(^2\)]、\(\cos\theta \)は単なる数で単位なし、\(l\)の単位は[m]だから、仕事\(W\)の単位は[N\(\cdot \)m=(\(\text{kg} \cdot \)m/s\(^2\))\(\cdot \)m=\(\text{kg} \cdot \)m\(^2\)/s\(^2\)]。これを[ J ](ジュール)という。
 運動エネルギー\(\frac{m}{2} v^2 \) の単位は[\(\text{kg} \cdot \)(m/s)\(^2 \cdot \)m=\(\text{kg} \cdot \)m\(^2\)/s\(^2\)=J]
 運動エネルギーの単位も仕事の単位も[J]で等しいのは、(1)より運動エネルギー変化=仕事だから当然である。
 [ なお、仕事について発展的な学習をしたい人は、10-02-1を参照するとよい。 ]

Posted by AKJ