10-03-3: 万有引力による位置エネルギーの公式の導出
万有引力による位置エネルギーの公式\(U=-G\frac{Mm}{r}\) を証明します!
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位置エネルギーの定義(10-03-2)
「ある位置から基準点まで保存力がすることのできる仕事」 (1)
から始めることにしよう。この定義は、重力による位置エネルギーなら「高さ\(h\)から高さ0の所(基準点)まで重力がすることのできる仕事(1-17-1)」(すなわち\(mgh\))である。求めたいのは、質量\(M\)の質点Mから距離\(r\)離れた位置で、質量\(m\)の質点mが持つ万有引力による位置エネルギー\(U\)の公式。この場合、基準点を無限遠に取るのが慣習だから(理由は最後に述べる)、\(U\)の定義は(1)にならって
「質点Mより\(r\)へだてた位置から無限遠まで万有引力が質点mにすることのできる仕事」(2)
となる。この仕事を計算をするために、図1のように質点Mの位置を原点Oとする\(x\)軸を取り、任意の位置\(x\)に質点m及び万有引力の\(x\)成分\(F_x\)を書く。

ここで1-48-1より \(\displaystyle F_x=-G\frac{Mm}{x^2}\:\) (3)
さて、(3)の\(F_x\)は\(x^2\)に反比例で、一定ではない。ゆえに、仕事\(W=\)(力の移動方向成分)×(距離)(1-16-1)とすることはできない。そこで1-18-1のような、力の移動方向成分\(F\)が変化していく場合の\(F\)のする仕事=\(F\)-\(x\)グラフの面積 の考え方を用いて、
\(F_x\)のする仕事=\(F_x\)-\(x\)グラフの面積
と計算することにする。ということは、
(2)の\(U\)=(質点Mより\(r\)へだてた位置から無限遠まで\(F_x\)のする仕事)
=(\(x=r\)から\(x=\infty\)まで\(F_x\)-\(x\)グラフの囲む面積) (4)
図2に\(F_x\)-\(x\)グラフを示した。(3)の通り\(x^2\)に反比例のグラフである。(4)の面積を赤色で囲ってある。 [
\(F\)-\(x\)グラフや\(v\)-\(t\)グラフの単元の説明通り、赤く囲まれたグラフの面積を、横幅の微小な長方形のいくつもの連なりで置き換える階段グラフ(の一部)を示してある。斜線を施した長方形の面積は\(F_x\)×\(\Delta x\)だから、微小仕事を表している。]
ところで、グラフの面積は定積分で表せる。(4)の定積分は具体的には、積分の中身(被積分関数)を縦軸の量\(F_x\)、積分変数を横軸の量\(x\)(\(dx\))、積分の下端・上端をそれぞれ\(x=r,\,\infty\)として、
\(\displaystyle U=\int_{r}^{\infty}F_xdx\) [ (3)を代入 ] =\(\displaystyle \int_{r}^{\infty}\left(-G\frac{Mm}{x^2}\right)dx\) (5)

(5)から\(U<0\)と分かるが、このとき力\(F_x\)は負の向き(\(F_x<0\))、移動の向き(\(x=r\)から\(x=\infty\))は正の向き、つまり力の向きと移動の向きが逆だから、負の仕事(1-16-1)、すなわち\(U<0\)となり適している。
(5)より \(\displaystyle U=-GMm\int_{r}^{\infty}\frac{1}{x^2}dx=-GMm\left[-\frac{1}{x}\right]_{r}^{\infty}\)
\(\displaystyle =-GMm\left(-\frac{1}{\infty}+\frac{1}{r}\right)\) (6)
\(\displaystyle \frac{1}{\infty}→0\)なので \(\displaystyle U=-G\frac{Mm}{r}\) (*)
これが1-48-1の万有引力による位置エネルギー\(U\)の公式である。
ポイントすぐ下の初めの段落で「基準点を無限遠に取る」といった理由が、この時点でハッキリする。仮に無限遠\(x=\infty\)ではなく、どこか有限の位置\(x=r_0\)を基準に取ると、(5)の積分は
\(\displaystyle U=\int_{r}^{r_0}\left(-G\frac{Mm}{x^2}\right)dx\) となる。すると(6)の計算は
\(\displaystyle U=-GMm\int_{r}^{r_0}\frac{1}{x^2}dx=-GMm\left[-\frac{1}{x}\right]_{r}^{r_0}=-GMm\left(-\frac{1}{r_0}+\frac{1}{r}\right)\) となり、\(U\)の公式がいかにも覚えづらい式\(\displaystyle U=-GMm\left(-\frac{1}{r_0}+\frac{1}{r}\right)\) となってしまう。そう、万有引力による位置エネルギーの基準点を無限遠に取る理由は、公式を覚えやすくする( (*) )単なる便宜上なのである。