1-07-1: 運動方程式の立て方 (及び重力、張力)
運動方程式を立てるには力が図示できるようになること、その練習をしましょう! → <例題>は1-07-2へ
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ポイント 力の図示の仕方
1.注目(している)物体に重力を書き込む
2.注目物体にふれているものを探す。ふれているものから働く力(接触力)を書き込む
下の表に重力と、接触力の1つである張力の性質を「力の規則」としてまとめておく
何から働く | 向き | 大きさ | |
重力 | 地球から | 鉛直下向き | \(mg\) |
張力 | 糸・ひもから | 糸と平行 糸が物体を引張る向き | とりあえず \(T\)とおく |
1-05-1で述べた通り、物体の速度を変化させる原因(力)は、必ず他の物体から働く。物体が物体自らに力を加えてひとりでに動き出す、などということは絶対に起こらない。つまり物体に力が加わるときは、必ず他に力を及ぼしてくる相手の物体があるのだということを、常に意識しておこう。上の表1のように、「何から」働く力か、「向き」はどちら向きか、「大きさ」はいくらか、の3点を押さえることが大事
さて、力を分類すると2タイプしかない。
タイプ1 重力。表1の通りの力で、地球が物体を引っ張る力だ(図1)。地球と物体が離れていても働くから、重力は遠隔力であると分類される。なぜ、表1にあるような向きと大きさ(鉛直下向き(地球の中心に向かう向き)に大きさ\(mg\))になるのかは、後々万有引力の法則を学ぶと説明が付く。が、ここではとりあえず覚えてしまおう。

タイプ2 接触力。相手の物体がふれているときには、原則として相手の物体から力が働き、これを接触力という。力学の分野では、重力以外は全てが接触力に分類される ―― 垂直抗力、摩擦力、弾性力、浮力、・・・。この単元では張力だけを扱う。
張力は表1の通り。ピンと強く張った糸の張力は大きく、あまり強く張っていない糸の張力は弱い。が、糸の張り方などはじめは分からない、つまり張力の大きさははじめは分からない未知量だから、とりあえず\(T\)とおく。なお、たるんだ糸からは、仮に糸が物体にふれていたとしても張力は働かない。
さて、図2のように、糸でつながれた物体A、Bを手の力\(f\)で引き上げる場合を考えよう。

1-06-1: 力学攻略の基本 に沿っていこう。
まず力 力の書き込み方は上のポイントの通りで、注目物体はこの場合もちろんAとBだ。
1. 重力を書く。Aに\(mg\)、Bに\(Mg\)(図3)。
2.ふれているものを探す(接触力)。
Aに手がふれているから、Aに手の力\(f\)と書く。Aに糸がふれているから、表1の通り「糸と平行、糸がAを引っ張る向き(下向き)」に張力\(T\)と書く。Aにふれているものはもうないから、Aに働く力はこれで終わり。
次はB。Bに糸がふれているから、「糸と平行、糸がBを引っ張る向き(上向き)」に張力\(T\)と書く。
「(軽い)1本の糸は両端を等しい大きさの力で引っ張る」。これは本来証明できることとはいえ、とりあえずは糸の性質として覚えておこう。Bにふれているものはもうないから、Bに働く力もこれで終わり。
なお、力を書き込むときのアドバイスとして ―― AよりBが重いか軽いかとか、A、Bが上昇中か下降中かとか、あれこれ考えたりせずに、表1「力の規則」に従って「機械的に」書いていけばよい。
次に\(ma=F\) \(x\)軸の正の向きに\(a\)と図示しておこう(図3)。糸は伸び縮みしないから、Aが例えば5cm上昇すれば、Bも5cm上昇するというように、任意の時間でのA、B の変位はつねに等しい。ゆえに、A、B の速度もつねに等しく、加速度もつねに等しい。つまり、Aの加速度を\(a\)(青)と図示したなら、Bの加速度も\(a\)(黄色)である。

さて、結論から言うと、運動方程式は各物体ごとに別々に立てる。つまり、まずAに加わる力だけをかき集めて合力(力の合計)\(F_A\)を計算し、Aの運動方程式\(ma=F_A\)を立て、次にBに加わる力だけをかき集めて合力\(F_B\)を計算し、Bの運動方程式\(Ma=F_B\)を立てる。
まず\(F_A\)は、図3の「Aに」という(青い)力だけを見る。\(x\)軸の正の向きの力\(f\)はプラス、負の向きの力\(T\)と\(mg\)はマイナスとして、合力\(F_A=f-T-mg\)。
正の向きと照らし合わせながら力の符号を正しく入れていくこと。
次に\(F_B\)は、図3の「Bに」という(黄色の)力だけを見る。正の向きの力\(T\)はプラス、負の向きの力\(Mg\)はマイナスとして、合力\(F_B=T-Mg\)。
すると運動方程式は
A: \(ma=F_A=f-T-mg \) (1)
B: \(Ma=F_B=T-Mg \:\, \) (2)
図3のAに加わる\(f\)は、(2)式のBに生じる加速度\(a\)に関係してこない。ここは重要な所だから繰り返すと、Aに加わる\(f\)は、(たとえ直観的にはそう思えなくとも)Bに生じる加速度\(a\)に数式上関係しない。言いかえると、我々の宇宙では、Bに結果(加速度)をもたらすのはBに加わる原因(合力\(F_B\))だけだ。1-05-1で、我々の宇宙は運動方程式が成り立つようにできていると述べたが、もっと正確には、運動方程式が「各物体ごとに別々に」成り立つようにできているのである。Aの加速度はAに加わる合力のみによって生じ、Bの加速度はBに加わる合力のみによって生じる、それが我々の宇宙なのだ。
あらためて
(1)は \(ma=f-T-mg \) (3)
(2)は \(Ma=T-Mg \:\, \) (4)
これらは\(a\)と\(T\)を未知数とする連立方程式であると見なせる(\(a\)はまだいくらか分かっていないし、\(T\)もとりあえず\(T\)とおいただけだった)。(3)+(4)で\(T\)を消去すれば、\(a\)が求まる。
\((m+M)a=f-(m+M)g \) ∴ \(\displaystyle a=\frac{f}{m+M}-g \)
これを(4)に代入すれば\(T\)が求まる。
\(\displaystyle T=M(a+g)=M\left( \frac{f}{m+M} -g+g \right)=\frac{M}{m+M} f\)
\(a\)が求まったので、あとは 運動\(v,x\)を調べる と行けばよい。以上が1-06-1: 力学攻略の基本 の筋書きである。
なお、「運動方程式を書きなさい」という問いに対して、なぜか左辺の\(ma=\)を書かない学生を時々見かけるが、これはno good。運動方程式はまず\(ma=\)、続いて合力\(F\)だ。