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6-02-2: 光電効果(続き)

光電効果を理解するためには、その実験装置も理解しておくことが大切です。

ポイントはこの単元の一番最後にまとめてあります。

 ここで、光電効果で用いられる典型的な実験設定について説明しておこう(図1)。
 陰極は「光電面」とも呼ばれ、入射光を当てて電子が飛び出してくる金属表面側。陽極は電子を捕捉する側。「光電管」はガラス管で、電子の運動を妨害する空気の分子をなるべく減らそうと、管中を真空に近い状態にしてある。広く用いられているのは、光電管が円柱状(円柱の軸は紙面に垂直)、光電面は円柱面の一部、陽極は(紙面に垂直な)線状のタイプ。光電管のサイズは5~10cmもあれば十分だ。

図1 装置の各部分の大きさは縮尺通りではない

 陰極とそれにつないだ導線は、ひとつながりの導体をなすので全体が等電位(3-06-1)、その電位を0Vとする(青色)。陽極とそれにつないだ導線もまたひとつながりの導体をなすので、全体が等電位、その電位を\(V\)とする(黄色)。陰極から飛び出した電子を特に「光電子」という(電子が光るという意味合いはない)。光電子が陽極に到達すると、電気回路が閉じることになり、負電荷の電子の流れと逆向きの電流\(I\)が計測される。これを特に「光電流」という(電流が光るという意味合いはない)。なお、電流計Ⓐと電圧計Ⓥは、電流と電圧を測っているだけで回路にとって特別なことをしているわけではないから、あえて点線にしてある。
 図1の右下部分には、電源と電気抵抗を通る1周電流\(I’\)をあらかじめ流しておく。その目的は ―― 点Qの電位は0V(青色)で、その右に行くと電源の向きが正極を向いているから電位がプラス、左に行くと負極を向いているから電位がマイナス。抵抗の電位は\(I’\)の向きにプラスからマイナスに下がっていき、抵抗の中点Pが0Vである。すると、陽極につないだ導線(電位\(V\)、黄色)と抵抗との接触点(矢印の接点)をPの右に取れば\(V\)>0、Pの左では\(V\)<0。つまり、接触点の位置しだいで陽極電位\(V\)をプラスにもマイナスにも自由に変えられる仕掛けとなっている ―― これが目的である。なお、大ざっぱに\(I’\)は10mA程度、\(I\)は10\(\mu\)A程度、\(I’>>I\)だから、\(I’\)が\(I\)によって乱される影響は無視してよい。

 図1の陰極と陽極付近を拡大したものが図2で、陰極を最も速く飛び出してくる電子(運動エネルギー\(K_m\))が書かれている。陽極電位を\(V\)<0に取ると、電位0Vの陰極の方が電位が高く、陰極から電位の低い陽極へ電場\(E\)が生じる。電子は負電荷\(q=-e\)(\(e\)は電気素量)だから電場\(E\)と逆向きに電気力\(F=|q|E=eE\)を受けて減速する。いま、陰極を最速で飛び出してくる電子の陽極での速さ\(v\)がちょうど0になるように\(V\)を調節したとする。この状況は、速い電子から遅い電子までひっくるめて、陽極に電子がぎりぎり到達できるかできないかの境目、つまり光電流\(I\)=0になるかどうかの境目である。このときの\(V=-V_S\)と書いて\(V_S\)阻止電圧という。

図2

 6-01-2のエネルギー保存則 \(\displaystyle \frac{m}{2} v^2+(-e)\phi \)=一定 
を図2の陽極側の\(V=-V_S\)、\(v=0\)の場合について立てると、
 \(\displaystyle K_m+(-e)0=\frac{m}{2} 0^2+(-e)(-V_S) \) すなわちポイント(III)
(III) \(K_m=eV_S \)
阻止電圧\(V_S\)を測定すれば、最速電子の運動エネルギー\(K_m\)が求まることが分かる。
 
 光電効果でよく題材となるグラフの1つ目として、6-02-1の図2では縦軸に\(K_m\)を取ったが、\(V_S\)を取る出題もある。(III)より\(K_m\)と\(V_S\)は定数\(e\)倍違うだけだから、縦軸に\(V_S\)を取ったとしても、グラフの概形は6-02-1の図2と同じである。
 光電効果でよく題材となるグラフの2つ目が図3(a)。横軸の陽極電位\(V\)の関数として、縦軸に光電流\(I\)を取ったグラフ。電流公式\(I=envS\)(\(n\)は単位体積あたりの電子数)より、縦軸\(I\)(1sあたりの電気量)の大小は陽極に到達する1sあたりの電子数の大小に直結している。
 図2のすぐ上の段落で述べた通り、\(V\)<0は減速電圧に相当し、\(V=-V_S\)で光電流\(I\)=0となる。一方、\(V\)>0は加速電圧に相当する(図2で陽極の\(V\)が陰極の0Vより高く、電場\(E\)の向きは左向き、電気力\(F\)は右向き)。ある\(V\)(>0)以上になると光電流\(I\)はもはや増加せず一定となる。その理由は ―― 入射光の光子数は例えば1sあたり10\(^{15}\)個のように実験状況で決まっていて、それに応じて陰極から飛び出す電子数も、例えば10%が飛び出すとして1sあたり10\(^{14}\)個と決まっているから、光電流の最大値は例えば\(I_{\text max}=e\)[C]×10\(^{14}\)[1/s]と決まっている ―― ということである。

 入試でしばしば出題されるのは、「当てる光の振動数\(\nu\)を一定にしたまま光を強くすると(強度を大きくすると)図3(a)のグラフはどのように変わるか」というもの。
 光の強度とは、定義により「1m\(^2\)あたりを1sあたり通過する光のエネルギー」(この定義は単位[J/(m\(^2 \cdot\)s)]で覚えておこう)。つまり強度=「(1m\(^2\)あたりを1sあたり通過する光子数)×(1光子のエネルギー\(h\nu\))」。
 そこで、\(\nu\)を一定にしたまま光を強くすれば → 陰極に当たる光子数が大きくなり → 陰極を飛び出す電子数が増え → 陽極に到達する電子数が増え → 光電流\(I\)が増えるから、図3(b)の黄色のようなグラフになる。

 最後に、入試の本番に光電効果の出題に当たった場合の「秘策」をお伝えしよう。手っ取り早く問題用紙の片隅にでも、ポイント(I),(II),(III)を抜き書きするのだ。

ポイント        
(I) \(K_m=h\nu-W \) 
(II) \(\: K_m=0=h\nu_0-W \)  ∴ \(\displaystyle W=h\nu_0=h\frac{c}{\lambda_0} \)
(III) \(K_m=eV_s \)

 出題内容は事実上この3つのポイントに限られるから、容易に満点(近く)を狙えるというものだ。

Posted by AKJ